CARRYが、生き様や在り方が気になる人を紹介する”ひととなり”のコーナー。
今回は、江田島を拠点にコラージュアーティストとして活動する今田知佐子さんにインタビューしました。

色鮮やかな花や生物、宇宙や光、それらと相対するかのように骸骨や人の裸体などの素材を組み合わせて作られる今田知佐子さんのコラージュアートは、見るものを強いエネルギーで惹きつけると共に、畏怖をも感じさせます。

私が今田知佐子さんに出会ったのは2014年、江田島の海友舎でした。その頃はまだアーティスト活動を開始する前で、“個性的だけどほんわかしていて気さくなお姉さん”という印象でした。一方、自分らしくいられる場所や出会いを探してアンテナを張っているような、内に秘めたパワーみたいなものを持っている方だなとも思いました。

それから数年で、今田さんは自ら行動して様々なアーティストと出会い、刺激を受け、2016年にヲルガン座の廃墟ギャラリーで開いた個展“Look at me”をきっかけにコラージュアーティストとしての活動を開始しました。そこからは積極的に、広島県内外で場所を問わずに作品展示やライブパフォーマンスを行い、2019年にはクラウドファンディングでスペインでの滞在制作を行うなど、国内外で活動の幅を広げ続けています。

今田知佐子(いまだちさこ) /コラージュアーティスト
1980年、広島県江田島生まれ、現在も在住。
2016年6月よりコラージュアーティストとして活動開始。
江田島を拠点に、県内外での展示、
ライブコラージュパフォーマンスを行っている。
ホームページ:chisacollage
https://www.chisakoimada.com

今回の記事では、今田知佐子さんの生い立ちや作品に影響を与えたもの、活動をする上での葛藤やこれからについてをお伝えします。

絵は妄想や憧れを形にするツールだった。

—そもそも絵やアートに興味を持ったのはいつですか?

幼い頃、母親が絵本をたくさん与えてくれていたのが影響しています。特に人魚姫が大好きでいろんな種類のものを集めてて。中でも高橋真琴さんの描く人魚姫に憧れていたのだけど、人が描いているものだと思っていなくて、その姿のまま実在すると思っていたんです。
ある日、保育園の先生がさらっと人魚姫の絵を描いてくれて。「えー!人魚姫って絵で描けるの!?」って衝撃を受けて、そこではじめて絵だと知った(笑)それから毎日絵を描くようになりましたね。

—幼い頃の憧れが影響しているんですね。

そう。絵本や映画、漫画など、ファンタジーなものが自分の妄想を膨らませてくれました。
絵は自分の中での妄想や憧れを形にしてくれるものだったから、着たい服もなりたい髪型も絵で描いていました。

身近な死が今の作風に影響している。

ライブパフォーマンスでの作品
人骨に花や生物が湧き出る

今田さんの作品は、人魚姫のようなファンタジーな印象よりも、溢れ出してしまうエネルギーに畏怖を感じるというか、陰と陽の両方が存在するという印象なのですが。

中3で母方の祖母、高3で母方の祖父、20歳で父方の祖母、そして24歳で父親が亡くなるというように、常に死が身近にあったんです。
父親の死をきっかけに介護の仕事に就きたいと思い病院に5年務めました。そこで”看取り”(死期まで見守ること)を経験して。今まで死って終わりだと思っていたのだけど、再生に繋がっていると感じました。それが作品に影響していると思います。

—“死が再生に繋がる”興味深いです。具体的にはどういうことですか?

どの方もいよいよ最期という時に、下顎(かかく)呼吸という呼吸に変わるんです。普段使わない筋肉を使って下顎を大きく上下させる動きを繰り返す呼吸のことなのですが、その動きに命のエネルギーを感じました。ろうそくの火が燃え尽きる直前にぶわっと大きくなる感じですよね。正に最後の灯火。
それを見て、命が消えていくことよりもエネルギーが放出されているということに感動し、同時に新しい命の始まりを感じました。命は尊く、愛おしい。

—なるほど。作品に畏怖や陰と陽を感じるのは生と死が表れているからかもしれませんね。
花と一緒に骨などのモチーフなどを使われるのは意図的ですか?

骨の中から花などが出ているのは死から生への転換が表れているからだと思います。血管や心臓、人間の体内のようなものも生命や、生のエネルギーを表しています。だけど、これらのモチーフは意図的に取り入れているのではなくて、必然的にそのような表現になってしまうんです。
骨にもエネルギーを感じてて。カラフルなものが出ているように見えるんです。

—白って様々な色の光が反射して見えているものだから、カラフルに見えたって言われても不思議じゃないですよね。根拠はないですが。

え、そうなんですか。それが見えてしまっているのかもしれない。
その表現、使わせてもらいます(笑)

リアルな人魚姫との出会い

—アーティストとして活動を始めたきっかけは何だったんですか?

江田島という島に生まれ、小中高とバレー部をしていた私にとって、アーティストって雑誌やTVの人の話という感じで現実的なものじゃなかったんです。それで生活できるとも思わなかったので、挑戦する前に諦めて、普通の大学を出て普通に就職しました。
だけど、江田島に戻ってきて、峰崎真弥ちゃんというアーティストに出会って。
彼女は芸術系の大学を出て、世界を旅してアート活動をしていて、自分とは対極の人で。うわ、目の前に本当にアーティストがいるぞと。もう、彼女は私にとってリアルな人魚姫ですよね。そこからスイッチが入っていきました。

—それから、個展の開催や様々な活動を経て。介護の仕事をやめてアーティストとして生きていく決断に至るわけですが、その時の心境は?

活動をスタートさせたら活動内容や場所を問わずいろんなことが進んでいったのですが、それをこなす日々の中で、表現力やスキルの足りなさも感じていて。私はまだアーティストではないなと思いました。
でも、もう前の自分には戻れないし、もっと表現していきたい。素直に正直に生きていきたい。ステップアップしていきたいと。
そのためには自ら動いて切り開いていく必要がありました。

自分にとっての一生懸命は他人にとっては一生懸命じゃないかもしれないけど、自分にやれることをやっていく。

—バルセロナでの滞在制作については、また別の記事で詳しくレポートさせていただくとして。クラウドファンディングでサポートを受けたりと新たな挑戦を経て感じたことはありますか?

バルセロナで得られるものがたくさんあったのは前提の話で。
今回、作品を作るところ以外のことにも挑戦しないといけなかったのですが、自分にできることとできないことがあって。自分では一生懸命頑張っているんだけど、他の人から見ると一生懸命じゃないこともあるんですよね。何でできないのか、自分がダメなんだろうかとわからなくなって、本当にやりたいことを見失いかけました。

—新たな挑戦の時につきものですね。

限られた時間の中でやらないといけないし、周りからのアドバイスも様々だから、自分が考えて取捨選択していくしかないんですよ。自分がやれることをやるしかない。

—その中で得られたものはありますか?

何で作品を作るのかという理由です。私は何かを吸収しないと作品にできないというわけじゃなくて、勝手に自分の内側からイメージが湧き出てくるタイプなんです。作品を作っている時にしか得られない高揚感があって。浮遊して昇華しているかのような感覚で。それは、好きなものを見たり、聞いたり、体験したりする時の刺激とは違うんです。
その感覚や感じたものをたくさんの人に伝えたい、共有したい。その思いで作品を作っているんです。誰かにすごいと言われたいわけじゃなくてね。もちろん言われたら嬉しいけど。

江田島が好き。自分がリラックスできる場所で“生活”がしたい。

—国内外で活動しているし、東京に出る方が活躍の場も広がると考えられがちですが、あえて江田島を拠点にしている理由はなんですが?

“東京に出て挑戦した方が良い”と言ってくださる方もいて、私の経験も技術もまだまだなので、チャレンジしてみたい気持ちはあります。東京に行くと展示や活動の場も広がるし、多くの人に出会う機会も増えると思うので。だけど、私は人の意見に左右されやすいので、東京を拠点にすると、自分のしたいことが見えなくなるんじゃないかという心配もあります。
私はイメージが自ら湧き出るタイプの人間なので、極力自分がリラックスできる場所で作品を作りたいんです。アーティストとして生きていくと同時に、一人の人間として、自ら食事を作って食べて、暮らしてという“生活”もしていきたい。島で暮らすのが好きなんですよ。江田島を拠点にして、時々都会や海外にいく。今はそうしたいです。

周りから見られている自分と、本来の自分との差異をなくしたい。

—これからやっていきたいことはありますか?

国内にとどまらず、積極的に海外でも活動したいです。そのために、技術が足りないところは投資して勉強をする必要があると思っています。筋力をつけないといけない。
今は、自分がやってきたことに対して周りの方々が評価をしてくださるのですが、まだその評価に私が追いついていないと感じるので、その差がないように、人間力を高めて自信をつけたいです。それが自分の原動力になっていますね。

アルビノの少女から鮮やかな色彩が湧き出る。
もっと自由に内から個性を放て。

※この記事の画像は全て今田知佐子さんより提供

インタビューを終えての振り返り
今田知佐子さんの独特な作風は一体どこからきているのか不思議に思っていましたが、生と死という、そこに立ち会った人にしかわからない経験がそうさせていたのだと知り、少し謎が解けました。
何かを始めるのに遅いも早いもなくて、行動したことで新たな人生はスタートするし、やらないと葛藤にも成功にも出会えないんだと思います。
新たな挑戦で、ひと揉まれした今田さんは、“こうでなければならない”という枠から少し抜け出し、身軽になったように感じました。

ABOUTこの記事をかいた人

広島在住。印刷・WEB関係の仕事をしながら、プライベートでは、音楽、建築、まち関係の活動、イベント企画・運営などを行う。 座右の銘は「CARRY on my way(我が道をいく)」 自らが考える・人に会う・活動する・実行することをスタンスに、クリエイティブに日々を探求する。 分野を跨いで生まれる相乗効果を楽しむことが好き。 マスターナンバー44でAB型のレア種。